2014年03月09日

伝説の経営者たち − ドナルド・トランプ (11)、アメリカの不動産王

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『幸運をつくり出す』

努力すればするほど運が上向くと言う実例を、私の体験の中から紹介しよう。注意して聞いてほしい。これは情熱と直感と、そう、幸運が織りなす物語なのだ。

1991年の不動産市場は不振の真っただ中にあった。業者の撤退が相次ぎ、わたしも深い深い泥沼にはまり込んでいた。借金の総額は数千億円。プレッシャー対策には一家言ある私でも、楽しいと言える状況ではなかった。

数千億円の負債を抱えているドナルド・トランプは、代わってみたいと思うようなクールな存在ではない。ある日、執務中の私に秘書が言った。

 「あのう。トランプさん。今夜は銀行家集会の予定が入っています。」 
 ウォルドルフ・アストリア・ホテルで開かれるこの晩餐会は、銀行関係者2,000人が顔をそろえる恒例行事であり、わたしはいつも欠かさず参加していた。人間は苦境に陥ってしまうと、順調なときのように活力が湧いてこない。

あの日のわたしも、銀行員に囲まれて一夜を過ごすより、自宅でフットボールの試合を観ていたい気分だった。地獄のような一日を終え、疲れは頂点に達していた。わたしは昼のあいだ、あらゆる銀行の返済要求にさらされていたのだ。

わたしの取引銀行の中に、とりわけ厄介な一行があった。この銀行の融資回収担当者は、悪意と敵意に満ちていた。彼は融資先を次々と廃業させた。彼の貸しはがしにより、ニューヨーク市では37人の不動産業者が破産に追い込まれた。

わたしがこの銀行から借りていた額は150億円。ほかの銀行と比べれば少額の部類に入るが、くだんの債権回収担当者の次のターゲットはわたしだった。たいていの場合、銀行は融資先となんらかの妥協点を探る。

しかし、彼は即時の100%返済という線を譲らなかった。彼はけだものだった。彼は私を破滅させようとしていた。

銀行家集会には行きたくなかった。なぜなら、彼は返済の滞った借主に憎悪を向けてくるからだ。ホテルの会場には、取引銀行の関係者が全員顔をそろえているだろう。自分をぶんなぐりたいと思っている連中に囲まれていては、ディナーを楽しむどころの騒ぎではない。

外には冷たい雨が降っていた。わたしは精も根も疲れ果てていた。数千億円の負債を抱える身では、高級リムジンで会場に乗りつけるようなまねはできない。ホテルへ向かう時間ですと秘書に言われたとき 「今日はやめておこう」 と答えた。

しかし自宅に戻ると、気力が回復してきた。 「やっぱり、行くことにしよう。」と思い直したわたしは、タキシードに着替え、会場へ向かった。イエローキャブがつかまらなかったため、トランプ・タワーからの10ブロックは、冷たい雨の中を歩いた。体はびしょ濡れ。

どん底の気分を支えてくれたのは、 “これは仕事なのだ” という思いだった。会場へ入って着席すると、左隣の銀行員が 「やあ、ドナルド」 と優しく声をかけてきた。続いて右隣の男にも、声をかけてみた。

男は何かをつぶやき、刺すような視線を返してきた。
「誰だか知らないけど、あんまり好かれてないみたいだね。」 さっきの左隣の男が耳元でささやく。名前さえわからない。わたしにとって右隣の男は、ただの名無しの怒りん坊だった。

しばらく左隣と談笑したあと、わたしは再び右隣の男に話しかけてみた。無駄な努力だった。たとえるなら、石の壁との会話。おまえの相手をするつもりはない、と男の態度は明確に語っていた。

緊張感があたりを満たし、わたしはみじめな気分になった。ニューヨーク中の銀行に借金をしているから、私はこんな目に遭わなければならないのだ。おそらく右隣の男は銀行員で、わたしを憎んでいるに違いない。ここまでひどい態度を取られるということは、わたしは男の銀行に莫大な借金があるに違いない。

それでも語りつづけた。少し打ち解けたところで、「君はどこの銀行に勤めている?」
と聞いてみる。男の答えに、わたしは度肝を抜かれた。2,000人を超える参加者の中で隣り合わせになったのは、よりにもよって、わたしが150億円を借りている銀行の行員だった。

しかも、この陰険な男こそが、ニューヨーク市内の不動産業者37人を破産に追い込み、次のターゲットを私に絞っていたのだ。なんという運命! この偶然のいたずらには私も唖然とするほか無かった。

「君はみんなを破滅させて、今は私を破滅させようとしている。」
「その通りだ。」 と彼はにべもなく答えた。しかし、会話は途切れることなく続き、ふたりは次第に打ち解けていった。彼は無類の女好きで、女性の話をしたがったため、わたしは女性の話題で盛り上げた。

ありていに言うと、150億円を借りている人間は、相手の話に合わせるしかないのである。

話の中で明らかになったのは、彼自身も苦境に陥っているということだった。彼は37人の業者を破産させたが、もともと完済能力が無いのだから、融資金の回収額が増えるわけではない。

それどころか、債権返済にかかる弁護士費用がどんどんかさみ、弁護士に食い物にされた彼は、結果として銀行に金銭的損害を与えた。ふたりはさらに打ち解け、最後には意気投合していた。

「ドナルド、あんたは悪い奴じゃないな!」 と彼は言った。
「当然だ」 と私は言った。
「うちの事務所に来てくれないか。返済の方法を話し合おう。」 と彼は言った。
絶頂期の頃は、銀行員が私の会社に来たが、絶不調期には、こっちから相手の事務所を訪ねることになる。

月曜日の朝、わたしは彼の事務所を訪ねた。そして、到着から5分後には、素晴らしい返済計画がまとまっていた。

この経験があるからこそ、わたしはゲイリー・プレイヤーの 「努力すればするほど、わたしの運は上向く。」 を信じられるのだ。

あの夜のわたしは、外出を望んでいなかった。あのまま自宅にとどまり、フットボールの観戦にとどまっていたら、おそらく、今のわたしは無い。破産して不動産業界を去った人々のように、今も不振にあえいでいるはずだ。

他人より幸運な人々が存在するのは事実である。わたしは100%そう信じている。しかし、自分で自分の運をつくり出すことはできるし、努力と知恵を傾ければ、不可能を可能にすることもできる。

つまり、あなたの幸運は向上させられるわけだ。実際、不運な状況に陥った多くの人々が、努力によって運を好転させている。

幸運はそう何度もめぐってくるわけではない。だから、巡ってきたときには、どれほどきつくても努力を惜しまず、幸運を100%利用する必要がある。運が味方してくれているあいだは、遠慮や躊躇などいらない。

あなたは人生最大の成功をめざして行動を起こすのだ。“Think Big (でっかく考えろ)” とは、まさにこのときのための言葉である。

 ( つづく ) 
 ( 引用: 『 でっかく考えて、でっかく儲けろ 』 Think Big and Kick Ass in Business and Life )



posted by ヒデキ at 23:24| Comment(0) | TrackBack(0) | 伝説の経営者たち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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