2013年06月29日

MBAの知識 − ベーシックス (67) ゲーム理論・交渉術

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  企業経営とゲーム理論

 ゲーム理論とは、複数の当事者 (プレーヤー) が存在し、それぞれの行動が互いに影響を及ぼし合う状況 (ゲーム) において、各人の利益 (効用) に基づいて相手の行動を予測し、意思決定を行う場合の考え方である。

 チェスや囲碁から政治やビジネスに至るまで、意思決定を伴うさまざまな事象をゲーム理論のフレームワークで取り扱うことができる。

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 “登山家の意思決定と経営者の意思決定”

 もしあなたの乗っている飛行機が、武装した1人のハイジャッカーによって乗っ取られたとき、あなたはどういう行動に出るだろうか。他の多数の乗客はどうだろうか。おそらく犯人の指示に従い何もしないだろう。

 多人数が一斉に行動を起こせば立ち向かえるかもしれないが、通常最初に行動を起こす人は、非常に高いコストを払うことになる (命を失う?) ため、利益よりもコストの方が大きいと考えるからである。

 それでは、トヨタはなぜ他の自動車メーカーに対して値下げ競争を仕掛けないのであろうか。資金力にものをいわせれば、他社を叩き潰せるかもしれないのに。おそらく競争を仕掛ければ、絶えざる値下げ競争の泥沼に陥り、競争を仕掛けない場合に比べて得られる利益がかなり少ないものになるためだろう。

 このように、政治、ビジネス、生活のあらゆるシーンにおいて常に競争 (ゲーム) は存在し、当事者はどう行動するかの意思決定を迫られている。

 一方、たとえばどの登頂ルートをとるかといった登山家の意思決定は、上記のようなゲームにおける意思決定とは根本的に異なる。登山家にとって一方のルートをとることは、天候によっては危険であるが大変価値があるのに対し、もう一方のルートは安全だがその分価値は劣るとしよう。

 ここで登山家の相手となる山 (環境) との関係を見ると、山は登山家がどのルートを選択したかによって晴れたり雨を降らせることはできない。すなわち、登山家の行動から何らの影響も受けないわけで、この状況ではゲームは成り立たず、通常ゲーム理論では取り扱わない。

 自動車の値下げ競争の状況では、企業の経営者にとっては 「こちらが値下げをすればライバル会社も値下げする。それを想定してこちらは。。。」 といった具合に、プレーヤー間の意思決定に相互作用がある。このような状況下で、それぞれの効用に基づいて各人の行動を予測し、意思決定を導く考え方をゲーム理論という。

  “ゲーム理論的フレームワーク”

  ゲーム理論はハンガリー生まれの数学者、フォン・ノイマンが1920年代に、ゼロサム2人ゲームの基本定理を証明したことに始まる若い学問である。相互に影響を及ぼし合う場で自分の利益を追求する行動 (戦略) は、本質的に室内ゲームと同じであるという認識から生まれた。

  その後、数学の1分野として発展してきたこの理論は、社会科学の分野に多大な影響を与えている。たとえば経済学では、各企業のマーケット全体に与える影響力は十分小さいという前提の下で理論が構築されているが、実際のマーケットは多かれ少なかれ寡占状態 (少数の大企業が市場をほぼ独占する状態) にある。

 したがって、各企業 (プレーヤー) はマーケット内の主要企業の相互作用をある程度予測する必要があり、ゲーム理論的フレームワークの中で考察しなければマーケットの正しい分析ができないと考えられるようになってきた。

米国ビジネス・スクールのカリキュラムでは、ゲーム理論はファイナンス、マーケティング、会計学等とならんで必修科目となっていることが多い。 「ゲーム理論」 として1講座を設けているカリキュラムもあるが、通常 「意思決定論」 「経営経済学」 といった講座の1分野として教えられている。  

 ゲーム理論の有用性

  ゲーム理論の活用例は日本でも散見されるが、特にアメリカにおいて政治・ビジネス等の分野で広く見られる。もともと数学の1分野として発展し、政治学、社会学に適用され、現在では交渉術にも適用されている。プレーヤー同士の相互作用に基づき利得の最大化をめざして、戦略の構築がなされる。

  “ゲーム理論の活用例”

  アメリカでは、ゲーム理論は政治・ビジネス等の分野に広く浸透している。共和党と民主党はゲーム理論的な駆け引きの中で意思決定を行うことがしばしばあると聞く。

 たしかにアメリカの2大政党は日本の政党と比べると教条主義的な面が少なく、よく言えば柔軟な、悪く言えば場当たり的な行動をとるように思われる。北部の共和党政治家のほうが南部の民主党政治家よりはるかにリベラルに見えることもあるほどだ。

 政策論争もイデオロギー対決というより、先方の出方を予測して戦略を練ることが多いのではなかろうか。

 ビジネスの分野では、ゲーム理論の活用例は日本でも散見される。ビール業界の価格競争や、トヨタ、日産のモデルチェンジ戦略等はその一例であろう。しかしアメリカにおいては、より積極的にゲーム理論的戦略が採用されている。

 アメリカ独特の例としては、比較コマーシャルが挙げられるであろう。ペプシコーラの比較CMはもちろん、たとえばアコードはホンダが流すCMより、フォードやクライスラーのCMでより頻繁に登場している。

 アメリカではこのほか、軍事戦略策定の中枢部門、外交政策の立案部門、大企業のマーケティング部門等には必ずゲーム理論の専門家がいるといわれている。

 ゲーム理論はビジネスにおける交渉術の基礎としても有用である。交渉において利害関係のある当事者 (プレーヤー) はだれなのか、各プレーヤーの効用はどういう相互関係にあるのかを明らかにしたうえで相手の出方を見極めつつ、自分の戦略を定めていく方法は、まさにゲーム理論のフレームワークの中で取り扱うことができる。

 “ゲーム理論の基本的コンセプト”

  ゲーム理論の検討を行うにあたって、ゲームに現れる基本的な概念を整理しておこう。ゲームの参加者はプレーヤーとして呼ばれる。各プレーヤーは個人であるとは限らず、1つのチームあるいは会社となることもある。つまりプレーヤーはそのゲームに加わる意思決定者の単位である。

 ゲームの終了時に各プレーヤーが手に入れるものを利得 (Pay-off) という。プレーヤーはあくまでも自分の利得をできるだけ大きくするためだけに行動すると考え、周囲への義理や遠慮は捨てる。

 他人を幸福にすることが自分の幸せだという人は、その人の利得が他人の幸不幸によって増減するという前提を置けば、その人にとっても自分の利得を増やすことが唯一の目標となる。

 次に、ゲームのルールを明確に決める必要がある。ゲームは通常何段階かにわたって行われるが、各段階においてプレーヤーは選ぶことのできるいくつかの手の中から特定の手を選択する。ゲーム全般にわたる選択を決めるものが戦略である。

 これに対し、各選択の段階ごとに考える手を戦術という。戦略はゲームを行っている途中で決めるのではなく、ゲームが始まる前にゲーム全体を見通して策定されるべきものである。

 ゲームのルールが決まり各プレーヤーが戦略を検討し終われば、今度はそのゲームがどのように展開して、結果はどうなるのかを見つけ出さなければならない。ゲームの結果を見つけ出すことゲームを解くという。

 ゲームを解くにあたっては、各プレーヤーがゲーム理論を熟知しており、ゲーム理論に基づいて合理的な戦略を立てていることを前提として考える。

 ひとりでも無茶苦茶な戦略をとるプレーヤーがいると、そのプレーヤーは必ず損をするのであるが、他のプレイヤーにもとばっちりがきて合理的な戦略が意味を成さないこともある。したがって、各プレーヤーが 「ゲームの達人」 であるという考えが基本となっている。

 ( 引用: MBAマネジメント・ブック、株式会社グロービス ) 


 【 ビジネスマンとしての基礎知識のMBA、早稲田大学ビジネススクール 】

posted by ヒデキ at 20:44| Comment(0) | TrackBack(0) | MBAの知識 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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